tomoro2003-11-07

村上春樹風の歌を聴け」読了。群像新人文学賞受賞作。
何かと芸術家きどりの若者(不思議少年、少女)に大人気の村上春樹ですが、その根幹はどんなものだろうと思って読んでみました。

書き下ろし最新作の「海辺のカフカ」だとか比較的新しい作品と比べると、何か違うものがある。それは、要するに謎の質なんだと思います。処女作なのかどうかは知らないけれど村上春樹の出発点となったこの作品において、確かにいくつかの謎は残されるけれど、それはまったく嫌味ではない程度で、むしろ心地よい読後感を与えてくれるものだった。

未解明の謎というのは、効果的である場合と、そうでない場合の戦略的価値の落差が大きい。「風の歌を聴け」で成功したそれは、近年の作品ではすっかり形骸化してしまっている。「わからなきゃいいんだろ」という投げやりな態度すら見え隠れしてしまう。人はそこに複雑なメタファーを求めたがるかもしれないが(確かにそれは愉快なことである)、ニュアンスとしては暴挙に似たものがある。すこぶる商業的な目的をどうしても感じてしまう。

「風の歌を〜」はとても素晴らしい作品だった。テンポといい、全体の雰囲気も申し分なかった。春樹が何を失い何を得たのかは知らないが、僕はとにかく彼の作品の中では初期の作品のほうが好きらしい。

『追伸』
「風の歌〜」を読んだあと、「水に眠る」という誰のだか知りませんが短編集を読んだのですが、クソでした。後味わるい。