群像応募作、ボツ案↓

 貧血で気絶する瞬間に瞼に映る閃光だとか、眩暈を起こした時に脳裏を走る残像を思い浮かべてみて欲しい。それは明るい部屋から突然暗い部屋に入ったときに見える、柔らかい幻覚にも似ている。
「心配しなくていい。君の描くイメージはしっかり伝わっている。それは濃く淹れたコーヒーにさじ一杯のミルクを入れるような曖昧な色では描かれない。そう、灰色だよ。白でも無く黒でも無く、その中間、灰色だ。いつの日か灰色はイメージの殻を破り、叢生する羊歯のように、執拗に君の現実を支配することになる。それが今を生きるということなんだ」
 そう、僕は灰色だ。何もかもが曖昧で、何もかもが中途半端なんだ。僕はそれをとても悲しく思っている。なぜだろう?それに先生、僕はとても苦しんでいる。色んなジレンマに悩まされているんだ。僕に何が見えるかってそんなの関係無い。現実的な問題をひとつひとつ真摯な態度で対処していくべきなんだ。
「目が覚めたのかい?」
 うん、駄目だった。少し疲れたから、このまま寝ていい?
「ああ、構わないよ。君が起きたら、もう一度二人で話そう」
 ありがとう先生。
「何もかも忘れて寝るといい。私は君が何か大切なものを消費してしまっている気がしてならない」